住宅事件簿

・インデックス

「建て替えろ!」は、
      危険な言葉

ウソのようなホントの話
モラルなど無い
  後付け太陽光発電工事
悪質リフォーム詐欺−1
悪質リフォーム詐欺−2
悪質リフォーム詐欺−3

シーリング劣化と雨漏
未熟化する配管工
誤解 床のたわみ

■間違いだらけの
     耐震リフォーム
正しい施工と事例1.2
事例3と、起こる理由


■断熱、結露のトラブル
間抜けな断熱工事
経験に勝るもの無し
小屋裏換気の実力
冬の過乾燥に要注意

■土地の事件簿
こんな土地まで売るか
ブロック土留めに
        建つ家

急傾斜地に建つ家
よう壁にまたがる家

■意外と多い漏水事故
給湯管から漏水
設備工事の不備
コンクリートの誤解

■欠陥工事の定番
耐震金物の不備
内部耐力壁の不備

■ログハウス
ネバー・ギブアップ!
俺たちは、無責任さ!

■揺れる〜建物
建物が揺れる〜3
3階建てが割れる〜2
3階建てが揺れる〜1
浦島太郎−事件

■基礎編
基礎に雪がかぶった2
本当のべた基礎事件
基礎に雪がかぶった


 

 

 
  最近立て続けに、欠陥トラブルの被害を受けた方から全く同じ言葉を聞く機会がありました。
 それは、「建て替えろ!」という言葉。

「建て替えろ!」は、危険な言葉

 いずれも築数年の方で、最初の方は完成以来、洗面器からの水漏れや換気扇の加熱、窓からの雨漏り、外壁の染みなどなどいろいろと不具合が重なり、最近また、外壁から雨漏りがして直してもらったものの、建築主に説明もなく直そうとしてトラブルとなり、今までのうっぷんが溜まって『建て替えろ!』と叫んだもの。

 もう一人の方も外壁のシーリングが数年も経ないうちにヨレヨレに劣化し、あまりにおかしいので検査会社に調べてもらうと、それ以外でも防火規定を守っていないなどの不備が発見され、どうやって直すのだ〜という交渉の過程で、相手の不誠実な態度などから『建て替えろ!』と叫んだもの。

09-1005.gif 実はこの『建て替えろ〜』という話は意外と多いのです。基礎工事の不具合でも、それまでの不具合や説明の不足から、完成した基礎を「壊してやり直せ」という話もよく聞く話です。
 そしてほとんどの場合、今までの相手の不誠実な対応がイヤになり、感情的に「建て替えろ!」と言ってしまうようなのです。

 でも、振り上げた拳はなかなか下ろしづらいもので、さらに相手の対応が木の鼻をこすったようなものであればなおさら感情的になり、ついに「建て替えろ!」が要求の中心になってしまいます。

■自動車の場合
 たぶん、このような発言をされる背景には、何かあれば交換で済ますことが多い他の業界の商習慣があります。
 スーパーで不良品を買えば交換ですね。家電も同様でしょう。もっと高額な自動車でも、新車の納車途中に営業マンがぶつけた新車も、注文者が縁起が悪いから新しい新車に交換しろ・・と言えば、当然交換するでしょう。

 でも実はこの交換。別に交換する側が大きな負担を強いられているわけではないのです。
 自動車も確かに交換されれば注文者は新たな新車になりますが、引き取られた自動車は、事故で破損した部分を交換して中古市場で売り出せば、まだまだ新古車ですから、高い値段で流通出来ます。つまり交換をしたところで丸まるの損ではない。
 普通の家電品や日用品も、交換したところで単価自体が安いですから、不良品として一定の紛失を最初から計上して価格に反映しておけばどうと言うことはありませんし、大量生産品であれば修理をするコストより交換をするコストの方がはるかに安いです。。

 こういったことが商習慣として行われているために、ついつい私たちは何かあれば交換が当たり前だ・・と誤解しがちです。

■建物の場合は事情が違う
 ところが基礎や建物をそれと同じように考えてしまうと大変なことになってしまいます。出来上がった基礎を一からやり変えるとなると、仮に基礎の工事費が120万円とすると、最初の基礎に120万円。解体に20万円とさらに再度やり換えが120万円。つまり120+20万円が持ち出しです。
 建物の建て替えとなると、建物の解体費用150万円を含めて建て替え費用まで全て持ち出しですから大変な金額です。
 そして、大事なことは、これらは事故に遭遇した新車を修理して中古車で転売するとか、一定の破損率を計上した上で価格を設定出来るようなものではありません。まるまる持ち出しです。

 そうなるとおいそれと住宅会社が建て替えなど飲むはずがありませんね。

■裁判をするとどうなるのか?
 そしてもう一つ、簡単に建て替えなどの話に乗らない理由は、法律上の判断にあります。
 次は、裁判では建て替えがどのように判断されているのかをお話ししていきます。

■裁判をするとどうなるのか?

■裁判ではほとんど認められない
 では、腹をくくって裁判を起こせばどうなるのでしょうか。これも残念ですが日本の裁判では、そう簡単に建て替えなど認めてくれません。裁判で建て替えが認められるのは、「建て替える以外に元の機能や価値が回復しない場合だけ」なのです。

 つまり、補強や修理で元の機能や価値が回復するなら、そのための費用は認めるが、建て替えは決して認めてはくれません。どんな修理や補修をしても元の機能や価値が復元出来ない場合にのみ建て替えを認めてくれます。

 そうなると、実際には基礎から上部構造、防水などいたるところで違反があるような建物でない限り、ほとんど建て替え要求など認めてくれないのです。
 この考え方はゴネ得は許さない・という意味ではなく、片方に一方的な利益供与を許さない。損害を受けた分だけしか賠償は認めない・・という公平性に基づく考え方なのです。
注:そういう考え方が、欠陥住宅被害者にとって公平かどうかは別として、法曹界ではそれが公平と考えています。

 このように、修理するコストよりも交換するコストが安い大量生産商品。
 一定の不具合が発生するため、交換コストを価格に上乗せしている商品
 交換をしても、他の市場で転売出来る商品
 ・・と、同じように考えて行動すると思わぬしっぺ返しを食うことがあります。


09-1005.gif この「建て替えろ!」という言葉は、あまり「建て替え要求」ばかりを続けていると、住宅会社は話し合いも交渉も出来ない頑固なクレーマーだとさっさと見切りをつけて、『ご不満なら、どうぞ弁護士にご連絡ください』と、要はやるなら裁判でもなんでも勝手にしろ・・という態度に豹変してしまいます。

 こうなってしまうと、いくら建て替え要求を取り下げても相手は交渉にすら乗ってきません。

 このとき勘違いをしてはならないのは、感情が激して、あるいは相手のあまりに不合理な対応に感情的に「建て替えろ!」という言葉まで飲み込んでしまえ、といっているのではありません。むしろ、自分はここまで怒っているのだ、という意思表示の一つとして「建て替えろ!」という言葉を言っても良いと思います。

 でもその後は冷静になれ。ということなのです。

 住宅会社に、法律的に妥当な要求だと思って言っているのだろうか・・思われてしまうと、この人とはこれ以上いくら交渉してもダメだから、裁判でも何でも勝手にしやがれ・・と開き直られてしまいます。

 『建て替えろ!』は不用意に言い続けると危険な言葉に変身する言葉なのですょ。

次は、「建て替えろ!」を言い過ぎて、債務不存在訴訟を起こされた人の話をします。


■債務不存在訴訟とは
 さて、「建て替えろ!」を言い過ぎて、債務不存在訴訟を起こされた人とは、どんな状態だったでしょうか。

 完成間近の住宅で漏水事故があり、1ヶ月近く床下に水が流れ続けていたのですが気が付きませんでした。そして、気づいたときにはすでに床下に10cmの厚みの水が溜まり、床のベニヤも至る所でカビが生え、変色していました。

09-1007.gif その方も最初は、部分的な補修でも良いというスタンスだったのですが、カビの調査などを進めていくうちに「建て替えろ!」と要求がエスカレートしていきました。

 でも住宅会社の方は部分補修で譲りません。そして、話し合いは変更線のまま、しばらくして住宅会社から、「これこれ以外の債務は無い」という債務不存在を確認するという訴えを裁判所に起こしてきました。

 もちろん、床下に水を垂れ流したのも過失です。カビの生えた床材も交換が当然です。そういう過失は認めた上で、その費用を200万円だと主張し、それ以外には一切の過失はない・・と訴えたのです。こうなると建築主も裁判を受けざるを得なくなってしまいました。

 交渉過程で相談に関わっていた私も、「損害額としては500万円前後では無いでしょうか。」というアドバイスはしていたのですが、それを大きく下回る評価を提示してきたのです。

 実はこんな事になるまでの交渉過程で、相手側が、『大変迷惑をかけたので基礎だけ残して上物は建て替えましょう。』といった大きな譲歩まで引き出していたのですが、この方はそれでも飲みませんでした。『基礎から建て替えろ!!』とやったものですから、やりすぎたんでしょうね。

 住宅会社としては、部分補修でよいのに、譲歩して基礎以外は建て替えますと言っているのに、基礎までやりなおせとは非常識にも程がある。と裁判を提訴したのでしょう。

 こうなれば勝負はありました。

 普通のサラリーマンでは、住宅ローンを支払いながら長期の裁判費用の負担は大変です。他方、年商2.3百億円もあるような会社であれば、裁判費用などどうとでもなる金額です。

 結局、この方は自ら和解に動き、最終的に500万円前後の金額で和解されたようです。住宅会社も裁判で提訴した200万円という無理な要求を飲ませたわけではないので、双方妥当な金額で折り合いを付けたようですが、この会社にすれば、常識も知らないやつは裁判でもして常識を知れ・・という気持ちだったのでしょう。

 拳を振り上げるのは良いが、それに自分が酔ってしまって落としどころ、引き際を間違うととんだしっぺ返しが来た・・というお話しでした。

 ただ、この方にとって幸いだったのは、住宅会社が本当に争う気ではなく、直すのに実際に必要な500万円前後の妥当な損害額を認めて和解するという大人の対応をしたことでしょう。

 もし、住宅会社が意地になれば、裁判をわざと長引かせ、建築主を兵糧責めにした上で、200万円の損害額以外は一切支払わない状態まで裁判で徹底抗戦するという選択肢もあったのです。


住宅事件簿・エンド
サポートサービスへのご案内