耐震性だけで計れぬ要素

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前ページのようなことを書くと……

「地震に便乗して不安を煽るような記事を書き、コンサルタント料で営利を上げているあなたの方がよっぽど悪徳に感じますが?・・・コンサルをしている立場の人間が書くべき事ではないでしょう。ところで、一体あなたどうしたいのですか?」

といった声が聞こえてきそうですが、-震度6強から7の地震で建物は、『倒れない=倒れないだけで、多少傾くのはしかたないだろうという前提』

と書くと、耐震性が低いと言われている建物は全て危険なのかというとなかなかそうでもないのが、話の難しいところです。

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構造計算は万能ではない

下の絵は、阪神大震災で私が直接見たり、相談を受けた建物です。
①は、総ガラス張りの建物が道路側にこってりと転倒していました。
立派に構造計算して作ったのでしょうが、何が悪かったのでしょうか。案外基礎と柱をつなぐ部分の施工ミスかもしれません。とっても象徴的で、震災写真でも多く掲載された建物です。ビルの所有者にとっては、とても納得のいかないことだったでしょう。「設計者が悪いのか、施工者が悪いのかはっきりしろ!」

②は、いわゆる飲食ビルです。
8階建て程度だったと思いますが少しだけ相談を受けました。となりのビルの方に少しだけ傾いています。肉眼でぱっと見てもわかりませんが、傾斜角は1/120。エレベーターは使えません。地面とはたった数センチ沈んだだけですが、建物としては使い物になりません。 「ビルそのものは被害を受けていないのに、俺が何を悪い事をしたと言うんだ!」というビル所有者のぼやきが聞こえてきそうです。

③は、築30年の雑居ビルです。
構造計算書を見せてもらいましたが、なんと手書きでたった30ページほど。でも当時の計算方法としてはその程度で良く、そのうえ何も損傷もなく建っています。今のように経済設計なんていう言葉がなかった時代です。柱は全て同じ寸法、同じ鉄筋の数。ややこしい配筋などありません。シンプルだから健全だったのです。

「建物はお古でも、計算は手計算でも、被害がなければ万々歳や!」という所有者のほころんだ顔が見えてきそうです。

耐震性だけでは計れない要素

今回の東日本大震災は、どちらかというと津波被害が中心です。
その前の新潟中越地震は、被災地域が広範囲で建物被害としての明確な特徴はありませんでした。
阪神大震災では、震度6強から震度7の地域が多かったですが、それでも全ての建物が損傷したり、倒壊したわけではありません。むしろ、特定の地域や工法に集中していたようにも感じます。 調査報告書を見ても、ログハウスや2X4工法、プレハブ工法、神社仏閣などは比較的被害が少なく、ビル関係も同様で、古いから危険というわけでもありませんし、全てが損傷を受けたわけではありません。

つまり、同じ震度を受けてもその被害はまだら模様です。
住宅を見ていても、やはり下のような変形した間取り、大きな吹き抜け、開口的な窓等々無理を重ねたり、クセのある間取りやデザインに被害が大きかったように感じています。

軸組工法と2X4工法の違いと傾向

サポートサービスの資料からは下のような傾向がうかがえます。
設計者が筋交いを意図的に配置しなければ耐力壁とならない軸組工法の耐震性は、平均的に耐震等級2をすこしだけ下回るあたりが中心域です。
建築基準法ギリギリの耐震性を持つ住宅は年間でせいぜい2.3件です。
対して2X4工法は、規定の方法で石膏ボードを両面打てば、壁という壁は耐力壁にすることが出来ます。このあたりのイージーさが2X4工法の高い耐震性につながる要素のようです。
(下の図の軸組工法は、この状態で壁倍率は4.0、対して2X4工法の壁倍率は6.0になります。同じ壁の量なのに違うのです)

これらを見てきた私の印象は、

①耐震基準ギリギリは避けた方が良い。(その理由は次回説明します)
②構造計算は絶対ではない(おもしろい事例を次回ご紹介します)
③無理な間取り、クセのあるデザインは、耐震性に関係なく、損傷が大きくなる傾向が高い
④耐震等級2前後以上の耐震性能があれば、後はそれほど心配しなくても良い

といったところでしょうか。

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