正義が勝つとは限らない。その理由とは。

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『欠陥住宅の被害にあった。相手が悪いことをしたのだから裁判官はきっと正しく判断してくる。』裁判に対してそう考えている方も多いのではないでしょうか。
でも答えは、NOです。
そして、NOといった理由は、裁判官が悪いのではなく、裁判のシステムそのもの(民事訴訟法)がそうなっているからなのです。

そして、このことを知らないと裁判には勝てませんよ。
このページではその理由を説明しています。

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裁判の大前提

調べてくれない裁判官

民事裁判の大前提として、 『当事者から提出された「資料・証拠」だけを元に判断する』というものがあります。これを弁論主義と言うらしいのですが、そういう専門家間の専門用語はさておいて、大事なことは、相手あるいは自分たちが提出した「資料」(裁判では証拠とも言いますが)だけを見て裁判官は判断をするし、そうしなければならない、と言うことなのです。逆に言えば、裁判の資料は全て当事者によってのみ集めなければならないという原則です。

これは簡単な話、裁判官が刑事事件の警察のようにその事件を自ら調べてくれたり、その事件の原因を探したり、あるいは専門家のアドバイスを受けながら裁判を進めるということは一切してくれません。言い換えれば、「裁判官はそんなことをするな、」と民事訴訟法に書いてある、と言い換えた方がわかりやすいかも知れませんね。
ましてや、テレビに映し出されている大岡裁きや遠山の金さん、はたまた水戸黄門のように、被害を受けた側は何もしなくても、事件の裏を調べ、気持ちを寸借し、『相手が悪いことをしたことなんか、すっかりお見通しさ・・』てな訳にはいきません。
欠陥住宅の被害にあった。相手が悪いことをしたのだから裁判官は正しく判断してくる。』 それは大いなる誤解以外の何者でもありません。これは裁判官が人情のない、能力のない、冷たい人なのではなく、民事訴訟法という法律にそういう裁判の進め方をしなさいと書いてあるからなのです。

裁判官に判断資料を提供しなければ勝てない

裁判では、「相手はこれこれの法律に違反して、あるいはこれこれの契約に違反していて、これこれの瑕疵(欠陥)があるから直せ。あるいは損害を賠償しろ」と訴えますが、では、どんな法律に違反して、今どうなっているのか。直すためにどの程度の費用が必要なのかといったことを具体的に提出しなければなりません。ところが張られた床の材料が違うとか、工期が遅れたと言った話なら簡単ですが、いわゆる違法建築の裁判になるとそう簡単ではありません。

裁判官が理解出来る資料でなければならない

裁判所は何も調べない。出されたものだけで判断すると言うのが大原則ですから、資料を作るのにしても、裁判所が分かるようにしなければならない。
欠陥住宅裁判で多い「耐震性」の被害にしても、法律で書かれている「階数が2以上又は延ベ面積が50m2を超える木造の建築物においては、各階の張り間方向及びけた行方向に配置する壁を設け又は筋かいを入れた軸組を、それぞれの方向につき、次の表1の軸組の種類の欄に掲げる区分に応じて当該軸組の長さに同表の倍率の欄に掲げる数値を乗じて得た・・・・国土交通大臣が定める基準に従つて設置しなければならない。 」の法律に違反しているのだ~といったところで、裁判官にはチンプンカンプンなんですね。
このページを見られた建築主の方で赤字アンダーラインの意味を正確に答えられない人が大半だと思いますが、それは裁判官も同じです。

つまり、欠陥住宅裁判では、裁判官が専門用語の一つ一つを調べて読んでくれる、と思ったら大間違い(仮にそういう裁判官だとしても、建築法規を読み解くためには、基本的な建築の知識がなければ不可能です。つまり、そんなことまでして読み解く時間もないのが裁判官ですから、それは不可能と言うことになります)

そうなると、上に書かれた張り間方向けた行方向なんてことから説明をしないといけない。「軸組」も(じくくみ)とフリガナを付けた方が理解を早くしてもらえる、といったように、裁判官が分かる言葉で、というよりも全くの素人の人に解説するようにかみ砕いて解説された資料でなければならない、と言うことに他なりません。

よく医療事件や建築事件は難しい、と法曹界で言われているそうです。東京地裁や大阪地裁では建築紛争を専門に扱う部署(民事○○部といった裁判官の部署)さえ作られています。それだけ「建築関係の法律の内容・中身」や「建築関係の法律で使われている用語」が難しいんですね。

資料例

裁判によって異なりますが、下の図は耐力壁の種類やその計算方法を解説した裁判用資料の一例

鑑定について

『当事者から提出された「資料・証拠」だけを元に判断する』とはいうものの、裁判所が自らの判断で鑑定人という建築判定のプロ、言い換えれば建築士を呼んで、その事件の調査をさせる場合があります。同じ意図でよく知られているのが、刑事事件の精神鑑定などで使われている弁護側鑑定人、裁判所独自の鑑定人というのもそうですね、
あるいは、調停の場合は、調停委員と共に建築士の資格を持った人間が「建築委員」といった立場で調停に同席する場合があります。
裁判で行われる「鑑定」も調停で行われている「建築委員」も、裁判官や調停委員の判断能力を補う意味で行われます。

鑑定や、建築委員がいると良い、とは言い切れない

ところが、この人達は基本的に中立なのですが、必ずしもその人が自分たちに有利に働いてくれるかどうかは分かりません。というのは、彼らはどちらかというと社会的ステータスのある人達から選ばれています。裁判員制度のように建築士を無作為に選んでいるわけでもなく、あの人は何となく知識と経験があるという人らしい・・なんて方法で選べませんね。仮にも裁判所ですからね。
裁判所のもっとも得意とする「根拠」というものが必要です。お役人的に言えば、選定した大義名分です。
そうなると、 たとえば大学の先生であったり、大きなゼネコンの職歴が長かったり、あるいは公益法人や業界団体の何らかの役職に就いていた。あるいはその紹介・・いわば社会的ステータスを持った人達から選ばれます。そういう意味では経験も豊富、中立的な紳士である・と言いたいのですが、しかし問題もあります。
大学の先生が必ずしも実務、施行知識が十分に持っていたかどうかは未知数です。団体役員が、設計や法律のプロであったかどうかも不明です。ゼネコン歴の長い人は木造住宅などやってたことはありません。

つまり、社会的ステータスとその事件に適材の人であったかどうかは分からないと言うことなのです。極端に間違った見解は示さないが、訴える側に痒いところに手が届くほど有利な見解を示してくれるかどうかは別物です。

そうなってくると、裁判であれ、調停であれ、自分を有利に導くためには、自前で証拠を提示し、その人達に、「なるほど。その通りだ」と言わせるほどに「証拠」を固めてしまった方が有利ということになります。簡単に言えば、「味方」に引き入れると言うことですね。

裁判官は真実を見つける仕事

私が懇意にされていただいている弁護士の方から、「民事事件なんてものは、どちらかがウソをついているんだ!!」という物騒な話をされたことがありますが、それは大なり小なりそういうことです。欠陥住宅を造った加害者であっても自分かわいさで事実を歪曲することだってあります。

裁判官は、そういうお互いの言い分の中から『事件の真実を見つけてもらう』仕事なのです。そのためには、自ら積極的に裁判官に知ってもらうようにしたほうがいいですよね。知ってもらう努力が必要なのが裁判なのですよ。


結局、
民事裁判では、

当事者から提出された「資料・証拠」だけを元に判断するルールがある。

裁判に勝つと言うことは

「資料・証拠」を出さなきゃ損。

しかし、

「建築に素人の裁判官が読んでも分かる資料を」

そして、

「知ってもらう努力をすること」

が大事なのです。

その努力無くして、「被害を受けたこと」は分かってもらえても、

正義が「正しく勝つ」とは限らないです。

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