欠陥マンションに最高裁 画期的判決

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2007年7月。マンションの瑕疵(欠陥)を巡る問題で、最高裁が画期的判断を下しました。
それは、構造上重要でない部分の瑕疵でも、居住者以外にも身体、生命、財産に危害を与える瑕疵は不法行為責任であると認め、また、不法行為である以上、直接契約関係のない設計者、工事監理者、施工者に対しても、損害賠償を請求出来、その結果、設計者、工事監理者、施工者に対して、完成後20年間の不法行為による損害賠償請求権を認めたのです。

何が画期的なのでしょうか。

 実は、違法工事でなくても、人の身体、生命、財産に危険を及ぼす建物の瑕疵は、設計者、工事監理者、施工者も20年間の不法行為責任を追及されることになったのです。

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事件の経緯

Aさんは、大分県にある9階建てと3階建ての2棟の店舗付きマンションを、完成後まもなく建築主から購入しました。
しかし、すぐにバルコニーや部屋の床や壁にクラックが入り、バルコニーの手すりもぐらついていました。
そのためAさんは、設計をした東京の設計事務所と、工事をした地元の建築会社を被告として総額6億4千万円の損害賠償請求を起こしました。

地裁、高裁の裁判の経緯

一審では、設計者施工者共に瑕疵担保責任があるとして、両者に7400万円の賠償を命じました。しかし、被告の設計士や、施行者はこれを不服として上告しました。
二審の高裁では、「Aさんと直接の契約者でない設計者、施工者は瑕疵担保責任を負わない」という理由で、Aさんの賠償請求を退け、また、建物の瑕疵は構造耐力上の安全性を脅かすほどのものではなく、違法性はないとして設計者、施工者の不法行為責任も否定しました。そのため、原告側が控訴しました。

誰に瑕疵担保責任があるのか

実は、Aさんが直接設計者、施工者に建物を建ててもらった場合の瑕疵担保責任は、言うまでもなく、設計者、施工者にあります。これは戸建ての注文住宅と同じですね。
しかし、マンションや建売住宅なども同様ですが、このケースのように売り主がいる場合、購入者は売り主にのみ瑕疵担保責任を請求出来る、という考え方が支配的でした。
このため、二審の高裁は、法曹界の常識的判断をしたのです。
すなわち、瑕疵担保責任を問うなら売り主だ。Aさんと直接の契約関係にない設計者、施工者には、瑕疵担保責任は問えない。といったのです。

しかし、ここで、上告を受けた最高裁は、あるジャーナリスト曰く時計の針を10年も早める画期的判断を下したのです。

その判決とは・・・・・・

最高裁判決要旨

以下の理由で、審理を尽くすよう高裁に差し戻す。
1.建物はそこに住む者、働く者、訪問する者、隣人、通行人の生命、身体又は財産を危険にさらすことのないような安全性を備えていなければならない。

2.建物の建築に関わる設計者、工事監理者、施工者は、契約関係にない者に対してもその建物の基本的な安全性が欠けることがないように配慮すべき注意義務を有する。

3.建物の基本的な安全性を損なう瑕疵がある場合は、違法性が強度であるかを問わず、不法行為責任が成立する。

4.基本的な安全性を損なう瑕疵とは、生命や身体を危険にさらすようなものをいい、建物の基礎や建物の構造に瑕疵がある場合に限られない。(バルコニーの手すりのぐらつきなども瑕疵に入る。)

5.不法行為責任である以上、直接の契約関係にない者でも、設計者や施工者に対して損害賠償請求が出来る

最高裁が認定した問題箇所

・バルコニーのひび割れ、1階ピロティの梁と壁のひび割れ
・床スラブのひび割れとたわみ、住戸隔壁のひび割れ
・外壁のひび割れ、庇の鉄筋露出、 ・梁貫スリーブによる梁の耐力不足
・その他床スラブの鉄筋の露出や構造上の瑕疵
・バルコニーなどの手すりのぐらつき、排気管の亀裂や隙間

何が画期的か。

マンションはもちろんですが、このことを建売住宅に置き換えてみましょう。
まず一つは、今まで売り主にしか出来ないと言われていた賠償請求が、直接契約関係に無い設計者や施工者を相手に請求することが出来ると判断されました。
販売直後に売り主が倒産した。あるいは売り主に資力が無い場合など、訴える相手が増えることになります。
つぎに、構造的な瑕疵だけでなく、住む人の生命、身体に危険を及ぼすようなことも賠償請求することが出来、さらにこれらを不法行為(法律違反の行為)と断じています。

さらに大事なことは、これら不法行為は、完成後20年間も請求出来るのです。


上の問題箇所の例を見ただけでも、建築の専門家から見れば、相当の手抜き工事をしたことが読みとれます。しかし、それぞれの判決には背景があります。この判決文だけをもって、あらゆる場面に適応出来る、考えるのは早計です。

しかし、構造的に重要でない部分でも、さらに、入居者以外にも身体、生命に危害を与える欠陥工事を瑕疵よりも重い、不法行為と断定し、その結果、今まで直接契約関係になかった設計者、工事監理者、施工者も賠償請求の対象とすることが出来るという判決は、画期的な意味を持ちます。

不法行為責任の時効は20年です。


先鞭の大きな舵取りをした最高裁判決で、時代は大きく、違法行為を許さない時代へと曲がりつつあります。そして、時を同じくして、設計者の罰則も厳しく改正されました。
不良な工事を行う設計者、工事監理者、施工者は、売り主の陰にも隠れられない、もはや、逃げられない、20年間になったのです。

07’6月の建築基準法の罰則強化は下記:
「以下の者、懲役1年に処す」
 判決全文
・事件番号:平成17(受)702
・損害賠償請求事件
・判決年月日:平成19年07月06日
・法定名:最高裁判所第二小法廷

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