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退化させられている構造設計 20007.08
耐震強度偽装事件の影響で、建築確認制度が大きく変わり、一定規模以上の建物では、構造計算の二重チェックが行われようとしています。
そのまえに、構造計算の基準は、地震の変遷でもあり、地震があるたびに耐震設計は強化されています。
テレビなどでも、紹介されたりしますが、現在の耐震基準は、昭和54年の『新耐震基準』というものがベースになっています。
そして、阪神大震災を経て、さらに倒壊原因が詳しく分析され、当時よりも高度な計算基準が設けられています。
でも、その基準には、現代人が陥っている大きな勘違いと、大事な視点が抜け落ちています。
マンションやビルを例に取りましょう。
昭和54年以前にも、鉄筋コンクリート造のマンションは建てられていましたが、その多くは手計算による構造計算書で、わずか30枚前後の計算書でしかありません。
それでも数階建ての建物を造っていました。
しかし、パソコンが普及し、また、昭和54年以降の耐震基準の緻密化によって、構造計算書は一気に200枚以上になりました。
そして、さらに阪神大震災以降の構造計算の緻密化によって、さらに枚数は増え、現在では 3〜400枚以上にも達します。
ところが、阪神大震災の数階建ての規模の建物被害を見ると、必ずしも、枚数30枚程度の手計算で作られた建物が倒壊しているのではなく、新耐震基準以降の2.300枚の構造計算書を元に作られたであろう新しいビルが倒壊している現実に直面します。
注:枚数は一つのたとえで、物件の規模や構造によって枚数も異なります。
それは、どういう事なのかをマンションのピロティを例に説明してみましょう。
■計算結果の偏重
下の図は、1階を駐車場にしようと考えたピロティ形式のマンションの平面図です。
構造計算が手計算であった頃は、このような建物の解析もどちらかというと手探りの状態です。そのため、設計者は『厳密に解析出来ないのだから、安全側に考えよう』という理由で、壁などを意図的に配置しました。
しかし、新耐震基準以降、構造計算が緻密化していくと、これだけ高度な計算をクリアしているのだから、建物も安全なのだろう・・と計算結果を過信し、設計に対する配慮が少しづつ薄れていくようになります。
つまり、昔は人の判断力を信じて考えていたものが、計算結果がOKとなったのだから良いのだ。。。と錯覚し始めたのです。
そして、その過程で、経験の少ない設計者ほど、『計算でOKが出たのだから良いのだ』という風潮が生まれて行きました。

注:この図はたとえです。ここまで単純ではありませんが・・・
その結果、阪神大震災では、真新しいビルが倒壊したりしている横で、古い汚いビルがびくともせずに立っているという珍現象が起こりました。
■もう一つの弊害 『経済設計』 ・・限界まで弱い建物
経済設計という、さも、正義の味方のような言葉の裏にも恐ろしい毒が含まれています。
パソコンの普及で、構造計算が細部にまで計算出来るようになると、今まで手計算で出来なかった何十箇所の柱や梁の計算もあっという間に可能になります。
実はパソコンの高速化も大変なもので、パソコン初期の時代は、構造計算のソフトを走らせても、結果が出るのに一昼夜かかっていました。それが少しづつ時間が早くなり、今では、当時と同じ演算なら、わずか数分で処理してしまいます。
その結果、何でもかんでも高度で複雑な構造計算を組み入れることが可能になり、すべての柱の鉄筋の本数を変えることも可能になりました。
当然、鉄筋本数が少ないほど経済的ですから、発注者からすれば、鉄筋本数を如何に少なくできるかが、構造設計者の選別条件になってしまいます。
言い換えれば、より強い、より余裕のある建物ではなく、計算さえあっていれば、限界まで弱い建物を造ることが、発注者にとって都合の良い構造設計者・・・なのです。(限界まで弱い建物とは、建築基準法がもとめているギリギリの耐力の建物)
昭和54年以前の手計算でしか構造計算が出来なかった時代。
柱の鉄筋は均一でした。しかし、今は柱事にバラバラです。
■『限界の経済設計』 ・・工事なんて知らないよ。
マンションの売り主にとって、室内にニュッと出てくる柱も梁も、うっとおしいものですね。
もっと進化した経済設計は、使用するコンクリートの強度を上げ、鉄筋の強度を上げて、限りなく鉄筋の本数を減らし、限りなく柱や梁を細くし、それによってコストダウンと、室内空間を拡大を図る方法です。
強度の高いコンクリートは施工時の品質管理が難しい・・と言うことなど彼ら経済設計を求められる者には興味ありません。
そういう設計図では、施工時にコンクリートの強度を低くして安いコンクリートに変え、強度の低い鉄筋をつかって鉄筋代を浮かせ、手抜き工事が出来る環境になろうと、そんなことは興味ありません。
鉄筋の本数を減らし、そして、計算結果さえOKであればいいのです。
かれらに求められた命題は、あくまでも机上の限界までの経済設計なのです。
■設計思想の退化・・計算でOKなら良いのさ!
あるマンションの相談で右図のような事例にぶつかりました。
普通に考えるとAゾーンの建物とBゾーンの建物は、地震を受けたときの揺れる長さ(振幅の幅)に違いが生じるため、エキスパンションジョイントというものを設けて、構造的に切り離して別々の建物で計画しますが、この建物はそれが設けられていませんでした。
エキスパンションジョイントというものを設けると壁が二重に入ったり、エキスパンション金物が必要になったりとコストアップにつながります。
そのため、おかしいな、と思いつつ構造計算書を見てると、この設計をした構造設計者も、この部分が弱点と考えていたのでしょう。
わざわざ、この部分は、これこれの計算をしてOKだから安全だ、という計算書を1枚作り添付していました。
たぶん、構造設計者は、構造の設計思想として良い構造計画ではないと考えたのでしょう。
しかし、エキスパンションジョイントを設けるように指摘すると、何よりもコストがアップしてしまいます。そんなことは、末端の構造設計者では口がされても言えない話です。
そのために、構造設計者としての良心を曲げて、次妻合わせの、安全だとする称する計算書をでっち上げたようです。
設計思想・・と書くと難しそうですが、簡単な話なのですよ。
上の図の AとBの2つの図をボール紙に切り取り、両端をつまんでちぎろうとすれば、Aの形のボール紙よりも、Bの形のボール紙の方がちぎれにくいだろう。。と誰でも想像できることですね。それが設計思想、感性の根元です。
携帯電話や家電製品には、これでもか、これでもか、と使えきれないほどの機能が付いています。これらの設計者もメーカーも、あらゆる機能を付けなければ市場で受け入れられないような錯覚に陥っているのでしょう。
構造計算や構造法規を主管する国も同じです。
構造計算は、難しければ難しいほど、奥が深ければ深いほど、細かければ細かいほど、良いのだ。という錯覚に陥り、そういういう計算基準を次々と提示してきます。
でも、計算する側は、常に緻密になり、細かくなる指針に、こんな事まで計算してどうなるの、という愚痴と共にうんざり気味。
審査する側は、とてもじゃないが数百ページの、アルファベットと数字の羅列以外、何も書かれていない構造計算書の中身など、もはやブラックボックスなのです。
重箱の隅を突きまくる構造計算基準のおかげで、どんどん設計能力も、おかしいと思う感性もそがれて行きつつある現代社会です。
国が陥っている大きな勘違い。
それは、計算基準と計算結果は絶対だ・・という過信
抜け落ちている大事な視点。
それは、麻痺してしまった感性。構造設計の思想、建物の本質的な安全性への視点そのものなのです。
そんな中で、ピアチェックがスタートしようとしています。
経済設計優先の、
限界まで本数が減らされた鉄筋の数量に、
計算上の間違いがないか、誤魔化しがないかの、
馬鹿げたチェックを行うのです。
計算以前に、構造計画がおかしいのではないか。。という指摘とか、
この設計で、品質管理が本当に出来るのか・・なんて関係なく、
数字の誤魔化しが無いかだけのチェックをね!!!
それも建築主から法外なお金と時間をふんだくってね。。。。。
表題の退化させられている構造設計。
それは、国が指定する複雑怪奇な計算に明け暮れ、設計思想や構造計画をないがしろにされている構造設計者の現実です。
補足:住宅レベルでピアチェックが必要なケースは、まずありません。
補足:ピアチェックとは、一定規模以上の建物で、確認申請段階で行われる、構造計算の二重チェックの事です。
補足:法外なお金と時間とは、法改正前の倍以上の確認申請手数料となり、倍以上の時間がかかります。(ピアチェック対象物件で延べ床面積2000m2以下の例)
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