知らないことを知る大切さ

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・・・・判断の根元・・・・・

 私の倒産劇で教わったもう一つの事は、「知らないことを知る」ということです。
当時私は、前項で書いているように中小企業診断士を受けようといろいろな勉強をしていました。そして、自分ではその知識の多さから、あたかも、それを熟知しているような錯覚を持っていたのです。
しかし、現実は書籍に書かれていないことの方が多い。その裏側の実態。経験でしか学び得ないものを全く無視していたのです。


 住まいの例に取れば、失敗の無い住まいを作ろうとするあまり、一生懸命、インターネットや書籍から情報を得て、その疑問をぶつけてくる人がいます。
その様な人の多くは向上心があり、物事の理解力もあるのですが、所詮は書物だけの知識、あるいは実体験を伴わない机上の空論、真偽のほどがはっきりしない情報を抱え込み、それを元にひとつの仮説を立てて、建物を推論しようとする人が多くなっています。
得ようと思えば誰でもが情報を得られる情報社会だから出来ることなのですが、その内容の浅さ、深さを判別出来ず、その危うさを知りません。

いくつかの例示をしましょう。

■コンクリート強度
このようなタイプの多くの人は、基礎のコンクリート強度に関心があります。それは、コンクリート強度が数値で表されているからです。
そして、いつコンクリートを打っても、いつもその強度がでているものと誤解をしています。
しかし、同じ21N/mm2という強度のコンクリートを打っても、コンクリート強度の品質基準日となる、コンクリート打設後28日目の強度は、冬季では18N/mm2程度にしかならず、春と秋は21N/mm2の以上強度が発現し、真夏では24N/mm2を遙かに超える強度がでることを知りません。
さらに、どのコンクリートも3年も経てば30N/mm2以上の強度になっていることを知りません。
このような実体験にもとずく、継続して得られたデータは、インターネットではでていないからです。

■かぶり厚
建物の耐久性を確保するためには、鉄筋とコンクリートのかぶり厚の確保が大切だと気づいています。多くのインターネット情報に書かれているからです。
しかし、もっとも効果的なのは、コンクリートの水セメント比を少なくすることです。通常60%程度の水セメント比を50%にすれば、4cmのかぶり厚でも、8cmのかぶり厚があるのと同様の効果があります。費用もほとんどかかりません。
しかし、このような事はインターネットでは決して書かれていません

■内部結露が怖い
多くの人が抱く不安です。でも根拠はどこにもありません。怖い事例が紹介されているから、それを自分のものとして置き換えているだけなのです。 内部結露の事故原因でもっとも多いのは、防湿シートの不具合ではなく、断熱材の欠損なのですが、怖い事例だけが頭に焼き付いて、不安を増幅させています。

>■Q値、C値
これも数値化している話で、この設計値をどの程度にするかを気にする人がいます。しかし、Q値はあくまでも計算。どんな断熱材料がより確実に施工出来るのか、どんな方法がより確実に目標C値を達成出来るのか、そして、その施工上の注意点(デメリット要素)は何か、といった施工レベルまでを思い描く人はいません
机上のQ値、C値があたかも、誰でも施工出来、誰でも達成出来ると錯覚しています。
材料の物性データは、施工精度を語らずに書いたただの数値に過ぎないことを知りません。

家を建てるとき、テレビ情報番組、書籍、インターネット情報など最近では多くの情報源から、幅の広い情報を得ることが出来るようになりました。
しかし、専門書ではない限り、所詮は広く浅い情報でしかあり得ません。
また、どんなに公庫仕様書を読破しようと、その規定がどのような理由で書かれ、どの程度の許容範囲があるのかまでは書かれていません。
いくら一生懸命知識を蓄えても、それが書かれた根元的な理由を知らなければ、そうなっていなかった場合の対処方法もわからない付け刃でしかありません。

その反対に、設計強度、呼び強度、強度補正、温度補正といったコンクリートの基本的な事も知らずに、コンクリートのことは基礎屋任せで放置している建築会社も多くあります。
私が関わるトラブルの多くは、設計者、施工者の無知による放漫な工事と、それを見て情報をより多く得られるようになった建築主との疑問から生じるトラブルがほとんどです。

つまり、施工者が偏った情報、知識を元に作業を行い、建築主はその工事を自分の得ている知識から疑問と思っているのです。
その逆の場合もあり、正しい工事を行ってるのに、建築主の断片的な情報判断からおかしい、と判断される場合です。

設計者も建築会社も、建築主の疑問を的確に説明出来ず、それを自分の職能の不足ととらえず、いたずらに経験だけで工事をし、言葉の方便を駆使して建築主を納得させようとする会社が多く存在しています。

建築主は、自分では知ったつもりの知識を強引に当てはめ、建築会社とトラブルを起こす人がいます。

いずれの場合も、「知らないことを知る」という大切さを知らない人達です。
別な言い方をすれば、「私の知識も経験もまだまだだ」と認識しているかどうかの違いです。

 

どんな知識も、それを知り、活用し、失敗し、その失敗を検証するためにさらに知識を得、経験と知識のサイクルを動かしていない限り、物事を熟知するということは無いのだろうと思います。
まだまだ、知らないこと、経験をしていないことの方が多いのだ。
知識は実際に使ってみて、壁にぶつかり、さらに調べるという行為がない限り、ただの付け刃だ。ということを知ることが出来たのが私の倒産劇でした。

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